わが国における妊産婦死亡は,医療従事者のみならず行政や各分野の尽力により大きく減少し,今や年間約50例,2万出産に1例と世界的にみてもきわめてまれとなっているが,慎重な周産期管理や産科医の技量にかかわらず,依然としてある確率で発生する.いったん事態が発生すれば非常に重篤かつ超緊急性で,めでたいはずの出産が急転直下女性の命を奪う事態となり,また産科医の責任が法的にも道義的にも厳しく問われることにもなる.このことは産科医のストレスとなり,開業医の産科からの撤退,ひいては地域周産期医療の崩壊の一因につながる.
周産期診療には「母体搬送」システムが機能している.これは母体あるいは胎児の合併症がある場合に,分娩前に母体をより高次施設に搬送するシステムである.もちろん救急車での搬送もしばしばであるが,ある程度予測可能な准緊急といえる範疇である.高次施設では新生児科医が待ち構えており,出生直後より児への対応が可能となる.
しかしながら,ここで取り上げる妊産婦急変の多くは母体搬送の守備範囲を逸脱している.正常な妊娠分娩経過であることが多いために事前の予測がしづらく,超緊急を要する.もはや産科医だけで対処する範疇を超え,救急医による全身管理を必要とする超救急疾患である.母児の生命予後を少しでも改善するためには,分娩現場での正しい初期対応と,適切な救急処置管理下での三次救急施設への迅速な搬送が重要な要素となる.受け入れる救急医にとっても,妊産婦急変の特性を事前に理解しておくことが迅速かつ適切な処置につながる.
そこで,われわれは京都産婦人科医会を基盤として「京都産婦人科救急診療研究会」を2010年に立ち上げた.京都府全域を実践モデル地域として,産科開業施設の現状に即した妊産婦急変対応指針の作成と産科救急訓練システムの構築および全国への啓発活動による展開を目指している.京都府の2つの医学部の産婦人科と救急医学の4講座が協力し,産科医のみならず救急医が全面的に協力して母体急変時の対応に特化した蘇生プログラムである「京都プロトコール」を作成し.これをマスターするための実技セミナーも開催している。これはほとんど前例がないユニークな組織である.
さらに今回は研究会が編集した「母体急変時の初期対応」がメディカ出版より出版されることになった。本書は本研究会の現在までの活動の資料と成果に基づいて企画執筆したものであり,特に実践的な内容になるよう配慮している.妊産婦急変対応に興味のある産科医,救急医諸兄,および研修医,学生諸君,助産師・看護師さらには各地域での妊産婦急変対応システムの構築などを考慮される場合に参考にしていただければ幸いである.
2013年10月
京都産婦人科救急診療研究会代表世話人 京都府立医科大学産婦人科学教室教授
北脇 城
京都産婦人科救急診療研究会 とは
京都産婦人科救急診療研究会は母体急変に対応するために産婦人科医と救急医とで結成された研究会です。
予期せぬ妊産婦の急変対応に必要なスキルを学ぶのが目的です。
救急医が産婦人科医に求める必須の初期対応とは
→バイタルサインから客観的に急変を認識できる
→大量出血時に輸液・酸素投与を的確に実施できる
→呼吸停止や循環停止を速やかに判断できる
→適切な妊産婦の一次救命処置を実践できる
一つでも自信がないと感じたら・・・
是非【京都プロトコール】をご覧ください。
新生児の蘇生のためのアルゴリズムの母体版ともいえます。
京都プロトコールのコンセプト
妊婦の急変時に高次施設へ搬送するまでに何をするべきかを産科単科施設レベルでも実施可能な内容で出来るだけ単純化してプロトコール化する。
つまり、スタッフの人数も限られた施設で、第一発見者が先ずすべきことを最優先にしています。
そのため、高次施設での根治治療や集中治療の内容はあえて割愛してます。ただし、高次施設でも他のスタッフが集合するまでに第一発見者がするべきことはこの内容と一緒です。
京都府の産婦人科医と救急医が協力して、母体急変時に必要な知識を、各疾患別にシミュレーションしながら学べるテキストを作りました。
「母体急変時の初期対応」(メディカ出版)を是非ご覧ください。
会則
京都産婦人科救急診療研究会 会則案
第1条 (名称)
本会は「京都産婦人科救急診療研究会」と称する。
第2条(目的)
本会は産婦人科領域の救急救命の知識および実技の向上ならびに研究を促し会
員相互および他の周産期医療に関連する機関との連絡を図り、地域における周
産期医療の発展を図ることを目的とする。
第3条(事業)
本会は第2条の目的を達成するために
1.毎年1回の学術集会を開催する。
2.その他随時研究会、講習会、などを開催する。
第4条(会員)
本会の会員は、原則として産婦人科、周産期,救急医療に関連する診療機関、ならびにこれに準ずる施設に属する医師とする。
第5条(会費)
本会の会費を、参加費として徴収する。参加費の額は、世話人会において決定し、施行細則に記載する。
第6条(事務局)
本会は事務局を京都府医師会内の京都府産婦人科医会内に置き、
事務作業を委託する。
第7条(役員)
本会は役員として、代表世話人、世話人、幹事、会計、および監査役を置く。
世話人が世話人会を構成し、本会の議を決する。代表世話人は、世話人会の中
から選出される。幹事、会計、および監査役は世話人会より委託される。世話
人と幹事、会計、および監査役は兼任できるものとする。監査役は、年一回監
査を行い、その結果を翌会計年度の研究集会にて報告し、承認を得る。本研究
会の会計年度は、毎年4月1日から翌年3月末日とする。
第8条 (運営)
本会の運営は、会費、寄付金ならびに製薬企業との共催等にて行い、運営方法
の変更等については世話人会の議を経て決定する。
第9条(改正)
本会則の変更は、世話人会の議を経て改正することができる。
第10条(個人情報の取り扱い)
1.本研究会は、学術集会等で発表される症例における患者の個人情報の保護
のために十分に注意を払う。
2.本研究会は、保有する会員情報を厳正に管理し、会員の個人情報保のため
に十分に注意を払う。
3.本研究会は、下記に定める場合を除き、会員情報を第三者に開示しないもの
とする。
(1)予め会員の同意が得られた場合。
(2)法令により開示が求められた場合。
(3)特定の個人を識別できない状況で提供する場合。
4.会員は、自身の会員情報の開示・訂正等および利用・提供の中止等の請求
を随時おこなえるものとする。その場合は、本研究会が指定する方法にて届け
るものとする。
*付記(施行細則)
1.役員の任期は、4月1日から翌年の3月31日までの1年間とする。
2.本会の会計年度は毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間とする。
3.本会則は平成24年10月21日から施行する。
役員
京都産婦人科救急診療研究会
代表世話人 | 北脇 城 (京都府立医科大学産婦人科教授) |
世話人 | 小西郁生(京都大学医学部産科学婦人科学教授) 池田栄人 (京都第一赤十字病院救命救急センター長) 太田 凡(京都府立医科大学救急医療部教授) 大島正義 (京都府産婦人科医会会長) 小池 薫 (京都大学医学部初期診療・救急科教授) 佐川典正 (音羽病院総合女性医学健康センター長) 濱島高志 (京都府医師会理事、救急担当) 藤原 浩(金沢大学医学部産婦人科教室教授) |
幹事長 | 橋井康二(ハシイ産婦人科医院・産婦人科医会理事:救急担当) |
幹事 | 井上卓也 (足立病院検診センター・産婦人科医会理事) 岩佐弘一 (京都府立医科大学産婦人科講師) 岩破一博 (京都府立医科大学産婦人科准教授) 大久保智治(京都第一日赤産婦人科部長) 鈴木崇生(京都大学医学部初期診療・救急科講師) 藤田宏行 (京都第二赤十字病院産婦人科部長) 藤原葉一郎(京都市立病院産婦人科部長) 山畑佳篤 (京都府立医科大学附属病院救急医療部講師) 近藤英治(京都大学医学部産科学婦人科学講師) |
監査役 | 種田征四郎(種田産婦人科医院院長・産婦人科医会理事) 福岡正恒 (産婦人科 福岡医院院長) 南部吉彦 (南部産婦人科医院院長・産婦人科医会理事) 柏木智博 (柏木産婦人科院長・産婦人科医会理事) |